Cut Papers

3月26日(日)の日記から

明倫(京都芸術センター)で開催されていた展覧会、
dream.GIRLS -I am not a person.- へ行く。
「Cut Papers 」というパフォーマンスを観たかった。

元小学校の校庭を通って北ギャラリーへ向かい、
少し緊張しながらドアを開けた。
口に人差し指をあてて「静かにするように」と
ジェスチャーでスタッフの方に指示され、会場に入る。




白く薄いカーテンの中で、真っ白なドレスに長くまっすぐな黒髪の
美しい女性がひとり、白い紙を切っていた。

はさみの音だけが響く。

会場内では音をたてないように気をつける。
はさみの音を聴き、彼女の手元や彼女のいる空間をただ見つめる。

わたしは何の知識も持っていなかったので、
はじめはどういうルールで切っているのかが気になり、
近寄って見たり遠くから眺めたりした。

紙を切るはさみの音から想像するに、
コピー用紙のような薄さではなく、少し厚みのある感じの紙。
切られた紙の山に埋もれるように座った彼女は、
表情も変えずにはさみを入れ続ける。
ただ淡々とほぼ同じスピードで四辺を切っているように見える。
途切れないように長く切ろうとしているのでもないようだった。

今度はどこまで切るのかが気になった。
紙が小さくなって切れなくなるまでなのか?
少し離れたところに置いてあるベンチに座って20分くらいずっと見ていた。

見ている途中で、少し辛く、胸のあたりが重苦しくなった。
このひとはなぜ切るのだろう、と思った。
誰かにやらされている「アート」だったら、
これをずっとやり続けるなんて不可能だ。気が変になりそうだ、と。
何か理由がある気がした。

白い紙はおしまいまで切られることはなく、
B5くらいのサイズになったところで次の紙に換えられた。
このパフォーマンスは1回につき1時間以上続くのだが、
ほとんどの人は、数分観ると会場を出て行った。
一回入って出て行った二人の男女がまた入ってきて
私の隣に腰掛けた。彼らは何かの紙を手にして読んでいた。
きっとパンフレットだろう。私もそれを読みたくなったので、外へ出た。

会場の入り口の小さな机の上に、1枚の紙と、アルバムが数冊置いてあった。
紙を手にして読んだとき、全てのことが納得できた。
そこには、彼女が紙を切らざるを得ない理由が書かれていた。

紙を切っている彼女の美しさは、「容姿」という
見たままのものだけではなかった。
日常の生活ではあまり感じることのない
濃密な「生と死」が彼女の体と行為から発せられていた。
生と死の境界に限りなく近いところで
生きるために紙を切っていることが、
どうしようもなく切なく、美しかった。

大事なのは、紙をどう切るかではなく、はさみの「音」。
じゃきじゃき、ざくざく。
紙を切る間に思考していることが、その切りくずに表れるという。

10年間、1日のあいだに約10時間、彼女は紙を切っている。
つづける、ということはどういうことだろう。
ここ数日、私は「継続する」ということについて考えていた。
私は何を継続できるだろう。「生きている」というそのこと以外に。

彼女は、生きるということが紙を切る行為なくしては出来ないのだ。
その行為をアートとして表現することは非常に勇気のいることだったのでは
ないかと思う。切り続けること、すなわち彼女が生きるための手段を
他人の前でさらけ出すのだから。

わたしは毎日「生きる」ということにそれほど心を砕いていない。
ギリギリの感はあるけれど、明日死んでしまうかもしれないとは意識しないし
これをやらなければ生きてはいられないということは、今、ない。
しいて言えば、食べて眠ること。しゃべって笑うこと。
なんて挙げ出したら他にも結構あるものかもしれないが、
根本的にはそれだけだ。
なんだか、それだけで幸せな気もする。
だけど十分ではない気もする。
それ以上何かを求めることはぜいたくなんだろうか。
つまり、仕事について。

続けられることは何だろう。
これをしないと生きていけない、というのは辛さを想像させるが
これがあれば生きていける、という想いを持ちたい気もする。
それが「希望」というもののように思う。

後から、よしもとばななさんの「ムーンライト・シャドウ」という
本のことを思い出した。主人公の女の子が恋人を亡くしてから、
毎朝ジョギングをすることでしか一日をうまく生きられない気がするのと
同じように、彼女、阿部幸子さんは毎日紙を切っているのだと思う。
出来ることなら、そうせずに生きられたらどんなに楽かと想像する。
けれど彼女の中では、思考を整理することと紙を切ることがつながっていて、
そうすることでしか、生きるために大切な何かを保つ事が出来ない。

私にとってそういうものは何だろう。
今こうして「書く」ということも、そのひとつなのかもしれないと思う。
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by ekla-cafe | 2006-04-20 23:58 | log


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