伏見稲荷大社で

泉湧寺を出て向かったのは伏見稲荷大社。
千本鳥居が有名です。

東福寺でバスを乗り換えていけると思ったのですが、バス停が離れていて
なんとなくこっちだろうと歩いていたら、道を間違えて逸れていってしまいました。
でも方向があってるからまあいいや、とそのまま進み、知らない町を歩く。

結局ずーっと歩いてしまい、たどり着いた頃にはもう足が痛くて仕方ない。
もともと、歩きやすい靴を履いていなかったのです。バス移動だからと思ってたのに。

そして伏見稲荷大社は、想像以上に広くて、全体が山になっていたのでした。
鳥居がいっぱいあるということしか知らなかった私は呆然としました。
・・・山を歩ける状態じゃない。
でも鳥居の有名なとこを通って、「おもかる石」のあるところまでは行こう、と
休み休み歩いて階段を登り、鳥居をくぐりながら進んでいました。

すると向こう側から歩いてきた、小柄な初老の男性に突然声をかけられました。
「この鳥居、一本いくらするか知ってるか。」





持っていた木の杖で、ぺしぺしと朱色の鳥居を叩きながら、その人は私に聞いてきました。

私は、朱塗りではなく石造りの鳥居に向かって石を投げて乗せようと企んでいて
(石が乗っかるといいことがあるという言い伝えがあります)
平たい石を拾い上げて狙いを定めていたところでしたが、
石を投げるのをやめました。
鳥居の値段なんて分からんけど、何だろうこの人と思いつつ
「うーん、分かりません」と、至って普通に答えました。

そうしたら、おじさんは色々と話を始めました。
最初は不思議に(あやしく)思っていたのですが、
この山の案内をボランティアでやっていて、しょっちゅう来ているということでした。
かれこれ28年もこの山を歩いている、今も旅行者を案内して下りてきたところだ、と。

そして「何でもお願いが叶う、すごいところに連れて行ってあげよう」と言われ
もう、神様にすがりつきたい思いの私は、それが一体どこなのかも分からぬまま、
そのおじさんに連れて行ってもらうことにしました。

鳥居の道を逸れ、山道を連れ立って歩き始めてすぐに、
「あんた話し言葉がちょっと違う地方のようだね」と言われました。

ばれたかー、もしやおじさんも!?と思いながら、
「島根です」と答えるや否や、おじさんは「やっぱりか!」と言うと
すごい速さで免許証を取り出しました。私の目の前に差し出されたそれには
『島根県隠岐郡・・・・』と書かれてあったのです。

島根県民だよ!!うわあ!!

同郷の人にばったり会っちゃったときって、なんでこうも嬉しいんでしょう。
すっかり意気投合してしまい、いやー、これも何かのご縁に違いない、と話が
盛り上がりました。そのおじさんはダンスの先生をしていて、普段から「先生」と
呼ばれているらしかったので、私もいつのまにか「先生」と呼ぶようになり
楽しくおしゃべりしているうちに目的地に到着しました。

そこには大きな石塚がありました。
おねがいの方法を聞き、言われたとおりに3回手を叩き、お願い事をしてから
3回鈴を鳴らし、鐘を3回叩きました。
お願いしたことは、仕事のことです。
先生曰く、ここに連れてきた人はみんな願いが叶っていて、礼状も何度ももらったと。

偶然伏見稲荷に来て、先生に会った時点ですごいことのような気がしていたので、
きっとご利益があると思いました。
先生自体が神様みたいなもんなんじゃないかって。

お願いが終わると今度は先生、山を歩くともっといいと言い出しました。

とてもいい水があって、持って帰って飲むと体の悪いところなんか全部治るぞ。
途中に甘酒がとっても美味しいところがある。おごってやるよ。
全部歩いたら2時間以上はかかるなあ。時間は有るか?

そんなようなことを一気にわあーっと言われ、
私は実のところは19時にとある企業の面接予定が入っていたのですが
元々それほど思い入れがなかったため、もうどっちでもいい気がしてきました。

今日のこの偶然は、ただの偶然じゃないはず。
これはもう、この人と一緒に山登りでも何でもしてやろうと思い
ヒール靴だし足は痛いしで不安はあったのですが、案内をお願いすることにしました。

山道は、歩きづらいけどとても気持ちよくて、
少し肌寒いんだけど歩いているうちに暖かくなってきました。
竹林を通ると筍がたくさん生えていました。
土と木と草のにおいに包まれながら歩く。深呼吸。
私は、「登山」というのはそんなに好きではないのですが、
森の中を歩くのは大好きなのです。
ほんっと、気持ちいい。

しばらく歩いていると、先生、だんだんと本性が出てきたのか
お下品トークが炸裂しだしました。最初はちょっとびっくりしたんですが、
あまりにもあっけらかんと下ネタを連発するので、もう爆笑。
本当に面白い人なのです。さんざん笑わせられました。

そうやって笑いながら歩いている間に、はたかれたり、手を握られたりしても
全く嫌な感じがしないんですよ。ただのいやらしいおっさんと思わせないところがすごい。
ただの、ではなく、とってもいやらしいおっさんだったと思うんですが
このキャラクターは凄いなあ、なかなかおらんわ、と感心するしかなく
とにかく楽しく山を歩きました。足が痛いのも忘れてるくらい。

だいぶ山道を登った先に、甘酒を出してくれるところにたどり着きました。
立派なお家。特に「店」という感じでもありません。「甘酒あります」と紙が貼ってあるのみ。
玄関でチャイムを鳴らし、「わたし。甘酒2つちょうだい。」と先生。
さすが、本当にこの山の主らしく、「わたし」で通じてる。

椅子に腰掛けて休憩していると、ずいぶん足が疲れていました。
何分歩いたか分からないけど、元々痛かったのが、どんどん痛くなっていて
もうこれ以上はしんどいなあ、どうしようかなと思っていました。

すると先生、察してくれたのかどうか、寒かったということもありますが
「今日はここまでにして、下りよう。それで下りてから抹茶のわらび餅おごってあげるから。」
多少、面接のことが気に掛かりつつも、まあ後で連絡して、今日は行くのやめようと
すっかり先生の作戦に乗せられ(?)わらび餅まで頂くことになりました。

しばらく待つと、甘酒が運ばれてきました。
持ってきてくれたのは、先生よりおそらくご高齢の、おばあちゃん。
少し話をして、また冗談を飛ばす先生にわっはっはと笑って、戻っていかれました。

甘酒は、少し冷えてきた体をとても温めてくれました。
先生が言うとおり、ほんとに美味しかった。優しい味。
ふたりで、あちちと言いながら甘酒をすすり、色んな話をしました。
とにかく笑った。笑うっていいことだ、と本当に思いました。

「明日死ぬかもしれないんだから、楽しくしてないと損でしょ」
というようなことを、先生は言ってました。
この人のおかげで、今日、どれだけ笑ったんだろう。
山の中で私の声、すごい響いてたりして。
でも、山を登る人なんてあまりいなかった。すれ違ったのも二組くらいでした。

そして下山。
時間はもう6時くらいでした。ただでさえ寒い日で、ずいぶん冷えてきました。
山は登るより下りるときが大変です。
腕を持ってもらいながら、ゆっくりゆっくり下りましたが、もう足が痛くて限界。
変な歩き方になってました。階段も、手すりをつかまないと歩けなかった。

山を下りたところで、最初に伏見稲荷にたどり着いてから1時間強だったと思うのですが、
先生とはまるで昔からの知り合いだったような不思議な感じでした。

そして本当に、稲荷大社にほど近いお店でわらび餅をご馳走してくれて、
そこではじめて先生の名前と連絡先を聞き、私も手帳に連絡先を書きました。
山に行ける時は電話しなさい、とか、三室戸寺に今度行くとき来るか?とか
色々言ってくれていて、ずーっとしゃべり倒していた先生が、
別れ際はびっくりするほどあっさりしていた。
不思議な人でした。

これが、伏見稲荷大社での出来事です。

この後、私はやはり約束の面接には行かず、疲れきった体を引きずって帰りました。
京都駅でバスを待っている間、自分の靴を見たら、どろだらけだった。
あーあ。上等の靴なのに。でも行ってよかったなあ。
ティッシュで汚れを落としながら、不思議な数時間を振り返っていました。

ところでこの日、携帯電話は昼間に電池切れしていました。
母親から掛かってきた電話で話しているときに、ぷっつり切れてしまったのです。
きっとメールや電話が入っているだろうなあと思い、家に帰ってすぐに充電しながら
電源を入れました。すると4件の留守番電話が入っていました。
4件は多い。
なんだろう。ドキドキしながら順番に録音を再生しました。

次の記事に続く。
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by ekla-cafe | 2006-05-13 21:18 | log


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